今年のコンクール課題曲の特性と音楽性

    私の所属する楽団の、今年のコンクールで演奏する課題曲と自由曲が晴れて決定した(課題曲:IV、自由曲:交響曲「ワイン・ダーク・シー」(J.マッキー))。課題曲を決めるにあたって指揮者やセクションリーダーが色々議論を重ねた上での決定で、当然ながら文句などひとつもない。

    ただ、課題曲が決定してしまうとその曲以外の曲に触れることもあまりなくなるだろう、と思ったので、今回は今年の課題曲について思ったことをまとめてみる。

 

Ⅰ.「あんたがたどこさの主題による幻想曲 (林 大地)」

    今年の課題曲で僕が一番好きな曲だ。作曲者が、2011年の課題曲Ⅲ「吹奏楽のための綺想曲『 じゅげむ 』」の曲に触発されて作ったというこの曲は、曲の作りがかなりじゅげむに似ている。フルートのソロから始まるこの曲は、アップテンポな主題を中心に描かれつつ、中間部には和の雰囲気を全面的に醸し出すエモい部分が用意されている。

    コンクール的な視点で話せば、縦を揃えながら横の動きも揃える難しさはあるものの、様々な視点で課題が捉えられ、曲自体がいい曲、いいメロディーを持っているので、やることが尽きない上でモチベーションは比較的落ちづらいと思う。完成まで持っていくのにはかなりの時間が要りそうな1曲だ。

Ⅱ.「マーチ『エイプリル・リーフ』(近藤 悠介)」

    中学高校の部で1番選ばれそうな曲だ。曲自体は吹奏楽コンクールの課題曲の模範みたいな曲で、ハイテンポなマーチだ。AのメロディーもTrioのメロディーもクラとサックスが最初にやる関係で、編成によってはサックスが目立つメロディーとなりそうだ。個人的に雰囲気は「マーチ『ライヴリー・アベニュー』」と似ているような気がするがどうだろう。

    こういうマーチで難しいのが「リズム感のキープ」で忘れがちなのが「和声感を整えること」だと思っている。これらを忘れずダイナミクスを表現出来ていれば、完成度は上がるだろう。演奏の基本を問う、という意味でまさに課題曲の名にふさわしい。

Ⅲ「行進曲『春』(福島 弘和)」

    今年は3曲も行進曲(マーチ)があるんだなぁ、と思って聴いてみれば、一風変わった存在感で出てきたのがこの曲。コンクールの課題曲感を感じさせない、全体的に落ち着いた雰囲気のあるローテンポな行進曲。ローテンポマーチが好きな僕にとって、いい曲だなぁと素直に感じる。

    この曲は行進曲でありながら、前半にユニゾンが多く、テンポの安定に時間がかかるという難しさがある。裏拍のリズムも多い(冒頭の「テーンテテーンテテテテテテーン」など)ため、マーチでありながら縦を合わせるのがかなり難しい。

IV.「行進曲『道標の先に』(岡田 康汰)」

    僕は、この曲を「ドラえもんみたい」と比喩した友人を称えたいくらいに曲のどの部分をとってもドラえもんという表現が秀逸だと思う。6/8というⅡともⅢとも違う色のマーチで、全体的に滑稽な雰囲気のある曲だ。

    ワクワク感のある曲ではあるが、そのワクワク感の表現は意外にも難しいと思われる。まずは6/8拍子に慣れて、リズムを全員で正しく共有する。その上でメロディーがしっかり歌いこみ、ダイナミクスを表現しなければならない。ただ、それが難しい故に避けてⅡにする団体も少なからずいることを考えれば、弊団がIVを選んだことは悪くないと思っている。

Ⅴ.「ビスマス・サイケデリア Ⅰ (日景 貴文)」

    課題曲Ⅴの特徴として、複雑ではあるものの全員がその複雑性を共有し演奏にそれが現れれば評価はされる、というイメージがある(Ⅴ自体演奏未経験なのでなんとも言えないが)。今年のⅤは特に前半部にそういう特徴があると言える。煩雑な連符が飛び交いながら後半は変拍子状態でテンポが安定化していく。

    仕上げるのには相当な根性がいるものの、その分仕上げた段階である程度の評価を受けるため、コンクールの勝ちを狙いに行く上で間違いではないと思う。ただ、Ⅴにした時の自由曲の選び方は僕にはわからないので、経験者に委託したい。

総括

    今年の課題曲は個人的に好きな曲が多いが、去年に比べてどの曲も難易度が高い印象を受ける。そして特にマーチやⅤは課題曲としての意味を本格的に掴んだと思われる年だ。曲をしっかり聞いてみれば課題曲としてでなく演奏会で使える曲も多い。そういう意味で、今年は多様性のある課題曲だと言える。

    おそらくはⅡが一番多いのではないかと予想するが、どうなんだろうか。ますます今年のコンクールが楽しみだ。

 

P.S 

あんたがたどこさは普通に演奏会でやってみたい。福島弘和さんは神。